おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
ISO14001:2015 箇条8.1には「運用基準」という言葉が出てきます。ISOは、こういう抽象的な言葉が、説明もなく突然出てくるので厄介ですよね。この「運用基準」とは何か?について、私的に定義を試みてみたいと思います。
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ISO14001:2015 箇条8.1の「運用基準」とは何か?の結論
これはぼくの私的な結論ですが、ISO14001:2015 箇条8.1の「運用基準」とは「プロセスを正確に管理・評価するための基準」のことで、手順や仕事の実施条件、目標などが含まれうるもの、とぼくは理解しています。
どうしてこういう解釈をするのかを、順を追って説明します。
「運用基準」(Operating Criteria)の辞書的な意味
ISO14001の英語の原文を読むと「運用基準」は"Operating Criteria"と書かれています。
Operateとい動詞は、日本語では「動く」とか「動かす」という意味ですが、ビジネスの世界で使われる場合は、仕事や組織が適切に回るように働きかける、といった意味があります。「営業する」「経営する」「運営する」といった意味ですが、もともとは「軍事作戦」を意味するところから経営用語に派生したのではないかと思います。余談ですが、軍事用語として使われる作戦(Operation)という言葉は、米軍の定義によると「軍隊の戦術的用法を国家の目的に関連付ける」ものとして、戦略と戦術の中間に位置づけられています。(興味がある人は防衛省のこのコラムを読んでください。面白いです)
一方、criteriaは、日本語では「基準」と訳されます。あるものを評価するときに使われる「ものさし」のようなもので、それを用いてなにかの決定を下すことがあります。例えば学校のテストの赤点の基準(Criteria)は、100点満点のうち20~30点以下が一般的ですね。それを下回ると「追試」とか「落第」といった決定が下されます。
辞書的な意味だけで「運用基準」という言葉を推察すると、「仕事をうまく回すために、評価や判断をするための”ものさし”のこと」といえばよいでしょうか。
ISO14001規格に出てくる「運用基準」
ISO14001規格には「運用基準」という言葉が箇条0.4に1箇所、箇条3.2.5に1箇所、そして本丸の箇条8.1に2箇所出てきます。それぞれ見てみましょう。
箇条0.4 Plan-Do-Check-Actモデル
PDCAモデルは、次のように簡潔に説明できる。
− Plan: 組織の環境方針に沿った結果を出すために必要な環境目標及びプロセスを確立する。
− Do: 計画どおりにプロセスを実施する。
− Check: コミットメントを含む環境方針、環境目標及び運用基準に照らして、プロセスを監視し、測定し、その結果を報告する。
− Act: 継続的に改善するための処置をとる。
ここでは「運用基準」は、PDCAのCheckで使われるものであり、プロセスの監視や測定をするときに照らし合わされるもの、と書かれていますね。また、この記述からは、運用基準は箇条9.1の監視・測定の項目になりうることも伺えます。
箇条3.2.5 目的、目標(objective)
注記3 目的(又は目標)は、例えば、意図する成果、目的(purpose)、運用基準など、別の形で表現することもできる。また、環境目標(3.2.6)という表現の仕方もある。又は,同じような意味をもつ別の言葉[例 狙い(aim)、到達点(goal)、目標(target)]で表すこともできる。
ここはなかなかおもしろいことを書いていますが、「運用基準」という言葉は、目的や目標と似た概念である、みたいなことを言っています。また「狙い」や「到達点」とも似ている言葉のようです。
箇条8.1 運用の計画及び管理
組織は、次に示す事項の実施によって、環境マネジメントシステム要求事項を満たすため、並びに6.1及び6.2で特定した取組みを実施するために必要なプロセスを確立し、実施し、管理し、かつ、維持しなければならない。
− プロセスに関する運用基準の設定
− その運用基準に従った、プロセスの管理の実施
この箇条からは、「運用基準」とは、プロセスを管理するために設定されるものということがわかります。
これらの規格での説明や、辞書的な意味を総合的に考慮して、ぼく個人としては「運用基準」という言葉を以下のように定義します。
運用基準とは"プロセスを正確に管理・評価するための基準"である。
でもまだこれだけでは具体的にイメージできませんよね。ちょっと具体的な例を使って説明しましょう。
ラーメンを作るプロセスにおける「運用基準」
運用基準は"プロセスを正確に管理・評価するための基準"と、私的に定義をしました。本題である環境マネジメントシステムにおける「運用基準」を具体的に説明する前に、わかりやすくイメージできるよう、ラーメンを作るプロセスにおける「運用基準」を考えてみました。
- スープの温度:スープは適切な温度(例えば、90℃〜95℃)で保つ
- 麺の茹で時間:顧客がオーダーする麺の硬さによって茹で時間が異なりますが、標準の茹で時間は1分30秒とする
- 具材の切り方:チャーシューは一定の厚さ(例えば、3mm)に切る。ネギは斜めに細かく切る
- 盛り付けの順番:スープを入れた後、麺を入れ、その上に具材を並べる。具材の並べ方は見本写真の通りとする。(見本は省略)
- スープの量:一杯のラーメンに入れるスープの量を300mlとする
- ラーメンかえし:水300ccに対し、醤油200cc、みりん50cc、料理酒150ccで作成。このかえしを、ラーメン1杯あたり20cc投入する
- 提供時間:注文を受けてからお客様にラーメンを提供するまでの時間を5分以内とする
ちなみにこれは「プロセス」なので、だいたいですが、上から下へと流れていくような工程になります。このようにラーメン作りにおける運用基準は、レシピ(調理方法や調理時間、調理条件)でもあり、目標でもある、という感じです。各プロセスで、こうした調理方法、時間、条件をしっかり守っていれば、それぞれのプロセスが「うまくいった」と評価でき、最終的なアウトプット(ここではラーメン)の質も担保できそうです。
ISO14001:2015の箇条3.2.5では「運用基準」という言葉は、目的や目標と似た概念である、みたいなことを言っていましたが、ここではまさに「ラーメンの提供時間が5分以内」というのが、目標っぽくなっているのがわかりますね。
※調理時間と調理条件(温度等)は基準ですが、厳密にいうと、調理方法(≒手順)は、基準とは言えません。しかし調理方法(≒手順)と調理時間・調理条件は密接に関わっていて、それぞれが単独では意味のあるものとして成り立たないので、この記事では便宜的に、手順も含めて「運用基準」とみなすことにしています。
次回は運用基準を具体的な例を使って説明したいと思います。