おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
デミング博士「マネジメントのための14原則」を読み直しています。ただ読むだけではなく、2020年代の現代の考え方や最近の経営理論と比べてみたりもしたいと思います。今回は第2原則です。
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デミング博士「マネジメントのための14原則」の第2原則
②この新たな考え方を自らのものとせよ。われわれは経済新時代に生きている。欧米のマネジメントは挑戦に目覚め、自らの責務を学び、変化に向かってリーダーシップを発揮しなければならない。
第2原則を読むには、ちょっと前提条件を補足する必要があります。デミング博士が「マネジメントのための14原則」を明確にしたのは1990年代で、当時は日本製品が世界を席巻していました(これが第2原則でいう『経済新時代』です)。デミング博士は、欧米(特に米国)流のマネジメントを見直さないといけない、という主張をしており、その流れで打ち出されたのが「マネジメントのための14原則」ですね。
第2原則は「変革に向けてリーダーシップを発揮しろ」と経営者に問うている
しかし隔世の感がありますね……。この「マネジメントのための14原則」は、今日現在の日本の経営者に対する警告だと思って読んでも違和感が全くありません。
特に以下の一文は、年代を1990年代と2020年代に、そして「米国」を「日本」に置き換えても通用するんじゃないでしょうかね。
1950年から1968年まで米国流マネジメントは、何者にも脅かされず、独走を続けた。なにしろ当時は米国製品が市場をほぼ独占していた。世界中の誰もが米国製品を買える恩恵に浴してラッキーだと思っていたのである。
だが1968年までには、競争力の闘いをもはや無視できなくなっていた。日本で起きたことは、米国でもやろうと思えばできたのに、実際には起きなかった。「われわれは正しいことをやってきたはずだ」と思考停止状態に陥っていたのである。いまもそうだ。これは不可避的な結末ではない。
こんな状況になっているので、第2原則では「新しい考え方を取り入れろ」とデミング博士は経営者に対して言っているのですね。要は、時代の変化を理解して、新しい経済状況に適応するためにリーダーシップを発揮しなさい、ということです。
競争環境に適応しすぎるとダメになる
ぼくが個人的に、この第2原則を読んで思い浮かべたものがあります。それは、W・バーネットとM・ハンセンが1996年に提唱した「レッドクイーン理論」です。
レッドクイーン理論は、企業が競争に勝つためには、絶え間ない進化と自己改善が必要であることを強調しています。この理論は、生物学の「レッドクイーン効果」に基づき、競争環境において他者とともに進化し続けることが、企業の生存率を高める、としています。
まあ「そりゃそうだろう」と思うでしょうけど、このレッドクイーン理論には続きがあります。
W・バーネットは、後日「新レッドクイーン理論」というものを提唱し、過度な競争に依存するリスクを指摘しました。特に、狭い視野での競争に固執すると、企業は環境変化に対応できず、新たなイノベーションの機会を逃す恐れがある、とバーネットは言うのです。
これに当てはまる事例が「ガラケー」ですね。日本の携帯電話市場は1990年代後半から2000年代前半にかけて、過剰なスペック競争に陥り、スマートフォン時代に遅れを取りました。「新レッドクイーン理論」は、競争相手だけを見ていると視野狭窄に陥るので、根本的な変革やイノベーションを通じて、自社のビジョンに基づき独自の進化を遂げることの重要性を強調しているのですね。
レッドクイーン理論とデミング博士の第2原則の共通点
レッドクイーン理論とデミング博士の第2原則には、共通のテーマとして「変化への適応」と「持続的な進化」があるように思います。
まずレッドクイーン理論では、企業が競争環境で生き残るためには、絶え間ない自己改善と進化が必要であると説いています。競争相手とともに進化し続けなければ、市場での生存が難しくなるという考え方ですね。
デミング博士の第2原則も、経営者が新しい経済環境や変化に適応し、自ら進んでリーダーシップを発揮し、変化をリードすることの重要性を強調しています。時代に取り残されないためには、古い考え方を捨て、新しいアプローチを積極的に採用する必要があるとしている点では、どちらも似たようなことを言っていますよね。(まあこのあたりは正論としてよく理解できるでしょうけど)
そして新レッドクイーン理論では、単に競争に勝つだけではなく、企業が自らのビジョンを掲げ、そのビジョンに基づいて独自の道を進むことが重要であると述べています。競争相手より速く走るのではなく、根本的なイノベーションや変革を追求することが求められています。
デミング博士の第2原則も、経営者が変化をリードし、組織全体が新しい考え方を受け入れるよう導くリーダーシップの発揮を求めています。これもまた、企業が競争相手に左右されず、自らのビジョンに従って進化を続けるための基盤となるものだろうと思います。
1990年代の日本や1960年代のアメリカの製造業は、競争に勝つために進化を続けた結果、世界市場を席巻しました。しかしある時点で競争の進化が限界に達し、環境変化(技術革新や新興市場の出現など)に適切に対応できなかったため、両国は没落してしまったと考えることができます。(そしてアメリカの没落期に、デミング博士の「マネジメント14原則」が書かれた)
その後アメリカでは、いわゆるGAFAなどが台頭することになります。IT分野で新たなビジネスモデルや技術を追求することで、再び世界の覇権を握ることに成功したんですね。これに対し、日本は製造業の成功に固執しすぎて、IT分野や新しいテクノロジーに十分な投資や進化を行わなかったため、遅れを取った、と言えるでしょう
競争環境に過度に適応することを防ぎ、イノベーションを起こすには、現場や管理職が努力をするというよりも、やはり経営者に重要な役割があるといえます。第2原則は、そうした「当たり前」のことに改めて気づかせてくれるものだろうと思います。