おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
11月1日、第13回経済財政諮問会議が行われました。これは経済財政政策を調査審議する国務大臣と有識者議員等の会合です。ここで「中小企業を守るための補助金を出している限りは決して生産性は上がらない」との指摘がありました。
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第13回経済財政諮問会議 議事要旨はこちら
新浪議員(経済同友会代表幹事の発言)
この発言をしたのは、経済同友会代表幹事で、ローソンやサントリーの社長を務めたことで有名な新浪剛史氏ですね。議事録では、以下のように発言しています。
まず、何といっても7割の雇用を抱えている中小企業の方々の生産性を上げなくてはいけない。生産性を上げるためにも最低賃金1,500円を予見性としてしっかり出していくことが必要ではないか。そして、この見通しの上で、中小企業が生産性向上のための投資を考えるとともに、経営指導を強化し、有為な人材が集まるようにすることが必要。中小企業を守るための補助金を出している限りは決して生産性は上がらない。この7割の方々の生産性が上がると潜在成長率も高まるため、もっときちんと取り組まなくてはいけない。
(太字強調筆者)
「中小企業を守るための補助金」とは何のことだろう?という疑問もありますね。一応、政府の建前としては、中小企業向けの補助金のほとんどは生産性向上のためという位置づけなので、公式には「中小企業を守る」という補助金なんてないんじゃない?と、ぼくは認識しています。
経済同友会は最低賃金を1,500円にすることを目指している
新浪氏は経済同友会代表幹事ですが、経済同友会では3年のうちに最低賃金を1,500円にすることを目指しています。
最低賃金を1,500円にすることが、どうして補助金批判につながるのかというのは、この経済財政諮問会議の議事録だけではピンときませんが、どうも記者会見の内容や日経の記事を読むと、要は競争を促したいようです。
つまり、補助金を出さない→適正な競争を促す→新陳代謝される→生産性が上がる→最低賃金1,500円でもやっていける、というのが、新浪氏(というか経済同友会)の意見のようですね。
これは、菅政権で成長戦略会議の委員を努めたデービッド・アトキンソン氏の主張とも通じる内容です。アトキンソン氏も、中小企業優遇策をやめて、中小企業の整理統合を進めて規模の経済を追求すれば、生産性が上がるという主張をしていました。
なぜ彼らがこういう主張をするかというと、①補助金によって効率の低い中小企業が残ってしまい、新しい企業に切り替わりにくくなるから、また、②大企業はこうした中小企業から安く仕入れを行い、新しい価値を生み出すことを避けているから、という2点があります。
アトキンソン氏の主張は学術の分野からも散々批判されているのですが、どうしてこの主張が政府の有識者会議で根強く取り上げられるのか、本当に疑問です。理にかなっているとかかなっていない以外の何かがあるのではという疑念が払拭できません。
確かに、現行の中小企業政策に問題があるのでは?という問題意識はぼくも理解できますが、新浪氏やアトキンソン氏のようなやり方だけで改革ができるかという点については懐疑的です。
競争が新陳代謝を促すというのは一面的な見方にすぎない
競争が新陳代謝を促すというのは一面的な見方にすぎない、とぼくは思っています。
製造業の下請けや小売のフランチャイズ展開などに顕著ですが、中小企業は大企業が引き受けたがらない、付加価値の低い分野(おいしくない分野)を引き受けることがあります。つまり、中小企業の付加価値が低いのは、大企業との関係性において起きている側面もあるのですが、それを放置したまま激しい競争にさらされると、付加価値の低いことを余儀なくされている中小企業は価格を引き下げて競争を乗り切ろうとせざるをえません。そうすると利益が減りやすくなります。この結果、従業員の給料を上げる余裕がなくなり、企業自体が経済的に厳しい状態に陥ります。
当たり前のことですが、競争が激しすぎると、企業が成長しにくくなる、というわけですね。
こうした過当競争が続くと、強い大企業はいっそう、弱い中小企業から安く仕入れたり、条件を押し付けたりするようになりがちです。結局は、大企業が努力せずに利益を得られる「ぬるま湯」状態となり、新しい挑戦や価値創造が減るという状況が温存されてしまいかねません。
百歩譲って、中小企業が競争や淘汰によって生産性を上げても、大企業が「付加価値の低い分野」を中小企業に押し付ける構造が変わらない限り、本質的な改革は難しいのではないかとも思います。効率が多少上がっても利益や価値が低い仕事が続くことになり、中小企業の生産性向上は早い段階で頭打ちになるのではないかとも思いますね。
個人的には、この構造改革のために、下請法や独禁法の強化・厳罰化が望ましいと思っていますが、経済同友会から出てくるようなアイデアではないでしょう。
中小企業政策(特に補助金)の見直しは賛同しますし、新浪氏が経済同友会の記者会見で述べているように、減税は一つの方向性だと共感します。ただ、中小企業に不利な構造を改革しながら進めるというバランスを期待したいところです。