おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
2024年11月1日に施行された「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)に基づき、初の勧告事例が発生しました。2025年6月17日、小学館と光文社が、フリーランスへの取引条件を事前に明示せず、かつ報酬の支払いを期日内に行わなかったとして、公正取引委員会から勧告を受けたのです。この事例を解説します。
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フリーランス新法違反の具体的内容
小学館と光文社が受けた勧告の背景には、フリーランスを保護するために法律で定められた、発注事業者の厳格な義務があります。公正取引委員会の発表によると、違反内容は主に以下の2点です。
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取引条件の明示義務違反(法第3条第1項) フリーランス新法では、発注者はフリーランスに業務を委託する際、直ちに「仕事の内容」「報酬の額」「支払期日」などを書面または電子メール等の電磁的方法で明示することが義務付けられています。両社はこの明示義務を怠っていました。
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報酬の支払い義務違反(法第4条第5項) 同法では、報酬は定められた支払期日までに支払わなければなりません。特に、支払期日を事前に定めていなかった場合でも、仕事の成果物を受け取った日(または役務の提供を受けた日)から起算して60日以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払う必要があります。両社はこの支払い義務にも違反したと認定されました。
公正取引委員会の調査により、両社が契約内容を事前に明確にせず、さらに支払期日を守らない、あるいはそもそも定めないまま支払いを遅延させていた実態が明らかになりました。
この違反により、両社は公正取引委員会から改善勧告を受け、今後は適切な取引管理体制の構築と運用が求められます。勧告を受けた事業者は、違反行為の是正と再発防止策の実施が必要であり、その状況は継続的に監視されます。
出版業界におけるフリーランス取引の特殊性
出版業界では、編集者、ライター、イラストレーターなど多くのフリーランスが活動しており、大手出版社である小学館と光文社が勧告を受けたことは、業界全体にとって大きな警鐘となりました。出版業界特有の制作スケジュールや慣行が、フリーランス新法が要求する厳格な「取引条件の明示」や「支払期日の管理」と衝合している可能性があります。
特に月刊誌や週刊誌の場合、継続的な発注と納品が行われるため、個々の取引条件の書面化や支払管理が煩雑になりがちです。しかし、フリーランス新法はこのような業界事情よりも、フリーランスの立場を保護するための法的義務が優先されることを明確に示しました。今回の勧告により、他の出版社も自社の取引管理体制を根本から見直す必要に迫られています。
今後の影響と対応策
今回の勧告事例は、フリーランス新法が単なる努力目標ではなく、実際に執行される法律であることを証明しました。
発注事業者は、フリーランス新法に基づく適切な契約・支払管理体制の構築が急務です。具体的には、委託時に必ず書面等で取引条件を明示すること、支払管理システムを整備し期日を遵守すること、担当者への法務教育を徹底することなどが求められます。違反が発覚した場合の勧告等の措置を避けるため、予防的なコンプライアンス体制の整備が不可欠です。
フリーランス側にとっても、今回の勧告は権利保護の重要な前進です。報酬の未払いや遅延、契約内容の不明瞭さといった問題が発生した際に、泣き寝入りせずに公的機関へ申告するという手段が有効であることが証明されました。申告を行う際には、発注時に受け取った条件明示書面や、やり取りの記録、納品物や請求書の控えといった証拠の保全がより一層重要になります。
小学館と光文社に対するフリーランス新法違反の初勧告は、同法の実効性と執行機関の本気度を示す重要な事例となりました。この勧告を機に、発注事業者とフリーランス双方が、より公正で透明性の高い取引関係を築いていくことが期待されます。