おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
10月11日、時事通信は、政府が「省人化・省力化補助金(仮称)」を創設する方向で検討していることを報じました。中小企業向けの新たな補助金施策として、月内に策定する経済対策に盛り込まれる見込みです。時事通信の記事を分析し、解説します。
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「省人化・省力化補助金(仮称)」に関する時事通信の記事はこちら
「省人化・省力化補助金(仮称)」にはインボイス制度対策の意味合いが含まれている
時事通信によれば、新設予定の「省人化・省力化補助金(仮称)」には、インボイス制度対策の意味合いが含まれる模様です。
この背景として、インボイス制度の導入・定着を目指し、9月末に行われた閣僚会議があります。閣僚会議で岸田首相は「事業者の取引環境を改善し、デジタル化や自動処理を推進するよう経済対策を進めてほしい」と指示をしたとのこと。これを受けて、「省人化・省力化補助金(仮称)」の創設が検討されていると、記事は伝えています。
しかし後述するように、支給対象には生産プロセスの自動化も含まれていることから、この新しい補助金はインボイス制度対策だけではなく、広く中小企業の省人化・省力化を目指している可能性があります。その中で、インボイス制度対策も取り込む形と考えられます。
なぜ「省人化・省力化」がインボイス対策となるのか?
インボイス制度は、消費税の仕入税額控除を目的とした制度ですが、省人化・省力化がなぜインボイス対策と関連するのでしょうか。
その理由は主に2つあると思われます。ひとつは、インボイス制度の導入で経理処理が煩雑化(例:仕入税額控除の際の請求書の確認作業など)します。これを軽減するための電子インボイスやRPA、請求書自動処理サービス導入などへ、補助金を提供するという理由です。
もう一つは、消費税免税事業者が「省人化・省力化」で収益性を高めることで、インボイス制度による税負担を軽減し、適格請求書発行事業者登録を促進する狙いもあるのだと推測します。
しかし補助金を交付することが根本的なインボイス対策になるかというと、そうも思えません。インボイス制度に反対をする事業者や団体は、この補助金施策に対して「マッチポンプだ」と言うでしょう。事務処理負担を軽減するなら、制度自体をいじるのが筋と思います。
また、最終的にどういう制度になるかはわかりませんが、補助金は一般的に、補助金に関する知識やノウハウ、補助金にまつわる事務処理ができる力量や体制のある事業者でないと獲得が困難です。インボイス制度論争で起きた分断を、補助金がさらに広げるおそれもあるように思います。
「省人化・省力化補助金(仮称)」の支給対象について
時事通信によれば、支給対象は「中小企業の生産プロセスや販売・事務作業の自動化を目的とした設備投資」のようです。ただ、国の補助金ですから、様々な制約があるでしょう。(事業計画書を書く必要があるとか、賃上げの必要があるとか、自動化投資をすることで付加価値率が一定以上向上するとか、そういう条件がつくかもしれません)
なお、現段階では具体的な条件はまだ公表されていません。
「省人化・省力化補助金(仮称)」は既存の補助金と重複しているのではないかという疑問
「省人化・省力化補助金(仮称)」が創設されるとしても、既存の補助金と重複しているのではないかという疑問も浮かびます。
現在、インボイス制度対策としては、小規模事業者持続化補助金とIT導入補助金がそれぞれ、インボイス制度対応事業者への措置を、すでに用意しています。また「省人化・省力化」や「自動化」といった点では、ものづくり補助金とも重複している可能性もあります(ものづくり補助金は「革新的な取り組み」である必要がありますが)。
既存の補助金制度との違いや棲み分けについての詳細は未定でしょうが、何らかの棲み分け策を講じてくることが考えられます。
個人的な感想ですが、生産性向上系の中小企業施策は乱立している割に決め手に欠く施策が多く、戦力の逐次投入感を覚えます。
「省人化・省力化補助金(仮称)」はいつから公募が開始されるか
公募の開始時期は未定です。ただ記事には「月内に策定される経済対策に盛り込む」とあります。
経済対策は、例年10月下旬に公開され、その内容にそって補正予算が組まれるというのが慣例です。昨年(2022年度)の場合は、10月28日に閣議決定され、12月2日に補正予算が成立しました。 補正予算に基づく補助金施策の実行は、その翌年になってから(ものづくり補助金では2023年1月から)でした。このスケジュールを踏まえると、「省人化・省力化補助金(仮称)」も、どんなに早くても2024年の第1四半期~第2四半期にかけて公募が行われるというのが、現実的なスケジュールでしょう。
「省人化・省力化補助金(仮称)」の予算規模はどの程度か
「省人化・省力化補助金(仮称)」の予算規模がどの程度になるのかも、記事からはわかりません。ただ、インボイス制度対策を含んだ事務の省人化や省力化という意味合いの補助金ですから、1社(者)あたりの金額はそれほど多くはないと考えられます。したがって予算規模も、ものづくり補助金や事業再構築補助金ほど(数千億円レベル)にはならないと思われます。
一方、10月11日に毎日新聞が下記のように報じていますが、国の中小企業向け補助金には、今も数々の問題点が指摘されています。
(筆者注:事業再構築補助金は)「政策目的にかなっていないという疑問や、制度の見直しに言及する意見が多かった」と話した。ゴルフなど一部事業に補助金が集中することや補助金そのものへの依存に対して懸念の声も相次いだという。
こうした意見が財政制度等審議会で見られることを考慮すると、限定的な予算規模であっても不思議ではないでしょう。