おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
デミング博士「マネジメントのための14原則」を読み直しています。ただ読むだけではなく、2020年代の現代の考え方や最近の経営理論と比べてみたりもしたいと思います。今回は第5原則です。
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デミング博士「マネジメントのための14原則」の第5原則
⑤生産やサービスのシステムを継続的にどこまでも改善することを通して品質と生産性を高めよ。そうすれば着実にコストは下がる。
いわゆる「継続的改善」を意味していますが、第5原則をよく読むと、われわれ日本人が一般的に想像する「継続的改善」とはちょっと意味合いが違うように思います。
われわれ日本人は「継続的改善」というと、例えばQCサークルや改善活動のような、現場改善をイメージすると思います。デミング博士も現場改善のことに言及はしていますが、どちらかというとこの第5原則は、マネジメントレベルでの継続的改善について述べています。
なぜなら、第5原則は「システム」についての話だからです。
システムとは一体何なのか?
「システム」というと、まっさきに情報システムのことをイメージする人も多いと思いますが、ここでいうシステムとは、プロセスの集合体とその相互関係のことを意味しています。例えば製造業だと、ニーズ把握から始まり、設計、調達、製造、輸送、アフターサービスに至るまでの各プロセスがあります。これらは互いに関連し合っています。また、この他にも採用、教育訓練やリソース配置、コスト管理など、生産の間接的に影響を与えるプロセスもあります。こうした各プロセスと、それぞれのつながりを全部をひっくるめたものが「システム」です。
したがって「システム」の継続的改善とは、個別のプロセスや作業方法等の改善ではなく、全体の改善を指しています。そしてこれは、マネジメント(経営層)が責任を追うべきものですね。別の言葉でいうと「個別最適」ではなく「全体最適」のこと、と言ってもよいでしょう。
システムの改善の目的は「ばらつき」を減らすこと
システムの改善はなんのためにやるのでしょうか?デミング博士は、第5原則の説明のなかで、以下のように述べています。
絶えず改善を重ねていけば、モノとサービスにおける主な品質特性の「ばらつき」は徐々に小さくなっていき、当初定めた要件仕様を遥かに超えるようになるはずだ。
システムの改善の目的は、品質特性の「ばらつき」を減らすことですね。品質特性というのは、例えば寸法や重量、機能等に関する顧客要求のことです。
もっと簡単に言うと、誰がやっても、またはどんな状況でやっても、同じ結果がでる(同じ品質になる)ようにするために継続的改善をするということです。そしてそれは「システム」の改善で行われるべきだし、マネジメントの責任である、ということですね。
品質特性の「ばらつき」を減らすことは現場の責任ではないか?と思うかもしれません。確かに現場としてもやれることはあるでしょうけど、品質特性の「ばらつき」を減らすために設計を見直す必要があるかもしれませんし、供給者との関係を良好なものにする必要があるかもしれません。そうした相互関連するプロセスも含めた全体的な改善が必要なので、マネジメントの責任だとデミング博士は言っているのです。
2020年代に現場改善をやることの困難さ
2020年代の現在では、改善を現場の責任だけにするというのは、非常に難しくなってきていると思います。
例えばQCサークルは現場主導の改善手法ですが、「惰性でやっている」「形骸化している」「できることから逆算してQCストーリーを作り上げている」などと、もともと批判も多いものでした。そこに2007年、トヨタのQCサークルが地裁によって「業務」と判定され、残業代支給を求められるようになって、衰退が一層進みました。いまでもQCサークル全国大会などもやってはいるようですが、QCサークルを肯定的に捉える風潮は大幅に減退したといっていいのではないかと思います。
もともとQCサークルはデミング博士の考え方をもとに石川馨氏が考案したものであって、デミング博士がQCサークルを推奨したかどうかはわかりません。ただ、僕の勝手な推測では、デミング博士はQCサークルに重きを置きすぎることを肯定的には捉えないのではないかと思います。なぜならデミング博士の主張の中心は、マネジメントが統計的にプロセスを管理することと、プロセスを含めたシステム全体の改善によって、ばらつきを減らすことだからです。
人手不足で、非正規社員も外国人作業者も多くなり、さらには製品やプロセス自体も高度化した現代では、デミング博士が提唱した、マネジメント主導のシステム改善がますます重要になるんじゃないかという気がします。