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ビジョンが会社を良くするという幻想 =「ビジョナリー・カンパニー」を批判する(2)

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おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

多くの人は、ビジョンがしっかりしている会社ほど安定し、成長すると考えがちですが、それは本当に正しいのでしょうか?「ビジョンが会社を良くする」という一般的な考え方に潜む誤解について、3回にわたって掘り下げてみましょう。

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本当にビジョンが「良い企業」を作り出すのか

では、本当にビジョンが「良い企業」を作り出すのでしょうか?ここで、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの言葉に耳を傾けてみましょう。

カーネマンは、その著書「ファストアンドスロー」の中で、「時間が経つと、ビジョン重視の会社も、ぱっとしなくなるんだよ。いわゆる『平均への回帰』という現象が働いて、極端な成功も時間とともに普通に戻っていくんだ。」と述べています。これはどういうことでしょうか?カーネマンは、どんなに優れた企業でも、時間が経つとその成功が平凡な結果に戻る傾向があると言っています。

さらに、カーネマンはこうも言っています。「成功した企業とそうでない企業を比べても、その違いはほとんど『運』に過ぎない。」つまり、企業の成功は、その企業が持つビジョンだけで説明できるものではなく、むしろ運や偶然の要素が大きく影響しているということです。

もう一つカーネマンの意見を聞いてみましょう。「企業の成功なんて、そんなに簡単にまとめられるものじゃない。『これを読めば成功する』なんていうものは存在しない。」企業の成功は、多くの複雑な要因が絡み合っているため、ビジョンだけでは説明できないと言うのです。

最後に、カーネマンはこうも言っています。「人々が求めているのは、企業の成功と失敗を明快に一刀両断してくれる説明であり、原因をわかった気にさせてくれる物語なのだ」。つまり、企業の成功や失敗をたった一つの要素であるビジョンに求めるというのは、まさにこの「わかった気にさせる物語」に過ぎないということです。結構辛辣に批判していますよね。

ビジョンにまつわる「ハロー効果」と「結果バイアス」

それでは「ビジョンが重要だ」という考え方がなぜ多くの人に受け入れられているのでしょうか?カーネマンは、「ビジョナリー・カンパニー」のような理論が受け入れられる理由として、ハロー効果と結果バイアスという心理的な現象が大きく関わっていると述べています。

ハロー効果とは、一つの良いところや悪いところが目立つと、その企業全体が同じように良いとか悪いとか思ってしまうことです。例えば、ある企業が非常に成功していると、その企業のすべてが素晴らしく見えるようになります。そして、その成功企業がビジョンを大切にしていると、私たちは「そのビジョンこそが成功の主な理由だ」と誤って結論づけてしまう傾向があるのです。

次に、結果バイアスです。結果バイアスとは、結果が良かったから、その決断や行動も良かったと考えてしまうことです。成功した企業を見た後、その企業が採用したビジョン重視の経営を過大評価し、それが成功の主な要因であると結論づけてしまうことが、結果バイアスの典型的な例です。

こうしたバイアスによって、成功した企業の特徴や手法が過剰に評価され、それを一般化して他の企業にも当てはめようとすることをカーネマンは批判しているのです。カーネマンもビジョンそのものを否定しているわけではなく、それがすべての成功を保証するものだと誤解されることに対して警鐘を鳴らしている、というわけですね。

企業の成功は「運」であるという身も蓋もない話

では、カーネマンは企業の成功に何が関わっていると考えているのでしょうか。それは「運」や「偶然」です。

この視点を支持する興味深い研究があります。2018年、イタリアのカターニア大学の研究チームは「才能よりも運が成功をもたらす」ということを数学的に証明しました。この研究は2022年にイグノーベル経済学賞も受賞しています。ちなみにイグノーベル賞といっても、その学術的な価値は正当に認められたものです。

この研究は個人の成功を対象にしたものですが、企業経営も経営者個人のリーダーシップに大きく左右されるので、運や偶然が企業の成否にも大きく影響するということは言えると思いますね。実感としても、企業が成功するかどうかに運が関わるのは理解できるでしょう。

カーネマンに否定された「ビジョナリー・カンパニー」ですが、ビジョンは本当に役立たずなんでしょうか?次回も考察を続けます。

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