おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
2020年実施ものづくり補助金の申請要件で「1.5%の賃上げ」が求めらます。まだ情報は限られていますが、1/31時点で留意したい点をまとめます。結論を言うと、もらえる補助金以上に人件費の負担が増す可能性があります。
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「1.5%の賃上げ」の要件について(事務局公募要領より)
「1.5%の賃上げ」については、1/23に公開された事務局公募要領にある程度の情報が記載されています。まずはこれを押さえましょう。
事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者等が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加)
(別添3 「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」の補助要件等について)
年率平均1.5%以上は、5年間で何%になるのか?
「1.5%か。楽勝だな」と思うかもしれませんが、これはあくまでも「年率平均」です。毎年1.5%、賃上げをし続けなければなりません。その期間は、事業計画期間(おそらく3~5年にわたって)です。
仮に事業計画期間が5年間だとすると、5年後には給与支給総額を何%あげなければならないでしょうか?可能性は下記の2つのケースがあります。
現状 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 5年間の増加率 | |
ケース1 | 100.0 | 101.5 | 103.0 | 104.5 | 106.0 | 107.5 | 7.50% |
ケース2 | 100.0 | 101.5 | 103.0 | 104.6 | 106.1 | 107.7 | 7.73% |
ケース1は、1.5%刻みで増加するケースです。一方、ケース2は、雪だるま式に増えていくケースです。ケース2の場合、ケース1よりも0.23ポイント余分に給与支給総額を増加させる必要があります。
これまでのものづくり補助金では、付加価値額や経常利益額の増加率を算出する方法はケース1でした。この規則に従うと、給与支給総額もケース1で計算される可能性が高いとは思います。
しかし、ケース2の可能性も捨てきれません。同じ経済産業省の施策で、省エネの努力目標として、エネルギー消費原単位削減の努力目標というものがあります。これは、5年度間で平均原単位( 単位量の製品や額を生産するのに必要な電力・熱(燃料)などエネルギー消費量の総量のこと)を平均 1 パーセント低減させるという目標です。この「年平均1%」の計算は、ケース2の雪だるま式なのです。
ケース1なのかケース2なのかは重要なポイントです。こちらは勝手にケース1だと思っていても、中小企業庁・中小機構側がケース2だと認識をしていれば、申請要件を満たさないということで補助金の返還要件に該当するかもしれません。このあたりは公募要領が出た時点で、中小企業庁・中小機構には明確にしてほしいところです。
増員による給与支給総額の増額は、別条件となる可能性
中には「賃上げはしなくても、採用して人の頭数を増やして給与支給総額を伸ばせば大丈夫なんじゃない?」と思う人もいるかもしれません。そのように吹聴しているコンサルタントの分析記事を見たこともあります。
しかしこれは要注意です。増員による給与支給総額の増額は別条件となる可能性もあると当社では見ています。
というのも、1/23に公開された事務局公募要領では、申請要件の実効性担保として次のような一文があります。
また、給与支給総額を用いることが適切ではないと解される特別な事情がある場合には、給与支給総額増加率に代えて、一人当たり賃金の増加率を用いることを認める。
(別添3 「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」の補助要件等について)
これが何を意味しているのかは、現時点では明確ではありません。しかし「一人あたり賃金の増加率を用いる」という表現から推察すると、従業員数の増減があって、賃上げ効果を総額では測りづらいというケースが該当するのではないかと思われます。この推測のとおりであれば、従業員の増員による給与支給総額では認められないという可能性があります(もちろん、違った意図があるかもしれません)。
このあたりも公募要領で明らかになることを期待しています。
増員にもよらず、5年間で給与支給総額を7.73%上げるのは、中小企業ではかなり困難ではないか
ここからは仮定に仮定を重ねる推測になります。ご容赦ください。
最も人件費を増やさなければならないと思われるモデルケースを検討します。具体的には、従業員数20名で給与支給総額が8,000万円(一人あたり400万円)の企業があったとします(雇用は増減しません)。その企業は、5年後に給与支給総額を8,618.3万円にする必要があります(ケース2の雪だるま式での計算の場合)。増額しない場合と、増額する場合を比較してみましょう。
(単位:万円) | 現状 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 1~5年後の合計 |
増額しない場合 | 8,000 | 8,000 | 8,000 | 8,000 | 8,000 | 8,000 | 40,000 |
増額する場合(ケース2) | 8,000.0 | 8,120.0 | 8,241.8 | 8,365.4 | 8,490.9 | 8,618.3 | 41,836 |
上記の通り、1.5%の賃上げを5年間に渡って行う場合、増額しない場合と比べて、5年間累積で1,836万円の人件費増になります。これは一般型での交付上限である1,000万円を836万円ほど上回っています。つまり、補助金で得られる金額以上の人件費増になる可能性があるということです。これに加えて、事業場内最低賃金において地域別最低賃金の30円増が要求されるわけです。
(このシミュレーションでは、賃上げをしなくてもよい要件を無視しているのは承知の上です。人件費が最も増加するケースだと思ってください)
モデルケースをもう一つ見ましょう。従業員数50名で、給与支給総額が2億円(一人あたり400万円)の企業があったとします。
(単位:万円) | 現状 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 1~5年後の合計 |
増額しない場合 | 20,000 | 20,000 | 20,000 | 20,000 | 20,000 | 20,000 | 100,000 |
増額する場合(ケース2) | 20,000.0 | 20,300.0 | 20,604.5 | 20,913.6 | 21,227.3 | 21,545.7 | 104,591 |
この時、1.5%の賃上げを5年間に渡って行う場合、増額しない場合と比べて、5年間累積で4,591万円の人件費増になります。ご覧いただいてわかる通り、従業員数が多いほど、賃上げの影響は大きくなります(アタリマエのことですが)。こうして考えると、2020年実施ものづくり補助金は、中堅規模の企業にとってはかなりの人件費増を要求することになるでしょうね。今後5年間にわたり増収増益が確実視されている企業や、もともと1.5%以上の昇給を検討しているという企業でないと、踏ん切りがつかない条件だと思います(そんな企業がどれだけあるのかという疑問がありますが)。
無論のことですが、一旦あげた人件費を、補助金の実施期間が終わったあとに下げることは、従業員の動機づけの点からいうと最悪の打ち手です。
「たった1.5%か。楽勝だな」と思わずに、コンサルタントの甘言を鵜呑みにもせず、このあたりのシミュレーションをしっかりとしてから、今年のものづくり補助金に申請するかどうかを検討してください。