おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
事業再構築指針には、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、事業再編の5つの類型があります。今日はそのうち「新分野展開」について解説をします。
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事業再構築指針「新分野展開」の全体像
新分野展開は、日本標準産業分類上の主たる業種・事業の変更がない場合の類型で、主たる事業・業種を変えず、新製品等を新市場に投入ような取組が該当します。
新分野展開には、大きく分けて3つの要件があります。
- 1つ目が「製品等の新規性要件」であり、要は「自社にとっての新製品・新サービスであるか」という要件です。製品等の新規性要件は、7つの小さな要件から構成されます。
- 2つ目が「市場の新規性要件」です。要は「自社にとって新しい市場であるか」という要件です。市場の新規性要件は3つありますが、必須なのは2つで、3つ目は任意項目です。任意項目が満たせたら、審査での評価は高くなるでしょう。
- 3つ目が「売上高要件」です。事業計画終了後、つまり3~5年後ですが、新しい製品・サービスが最低でも会社全体の総売上高の10分の1以上にならないとダメという要件です。
事業再構築指針「新分野展開」の定義
新分野展開のポイント
- 主たる業種・主たる事業は変わらない
- 新たな製品の製造(または新たな商品・サービスの提供)をして、新たな市場に進出
事業再構築指針によると、次のように定義づけられています。
新分野展開とは、中小企業等が主たる業種(売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく大分類の産業をいう。以下同じ。)又は主たる事業(売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく中分類、小分類又は細分類の産業をいう。以下同じ。)を変更することなく、新たな製品を製造し又は新たな商品若しくはサービスを提供することにより、新たな市場に進出することをいう。
事業再構築指針「新分野展開」の該当要件
新分野展開のポイント
- 新製品・新商品・新サービスに新規性があること
- 新製品・新商品・新サービスの属する市場に新規性があること
- 新製品・新商品・新サービスが、事業計画期間終了後に、会社の総売上の10分の1以上を占めることが見込まれること
事業再構築指針によると、次のように定義づけられています。
本事業の対象となる新分野展開とは、次のいずれにも該当する場合をいう。
(1) 事業を行う中小企業等にとって、事業により製造する製品又は提供する商品若しくはサービスが、新規性を有するものであること。
(2) 事業を行う中小企業等にとって、事業により製造する製品又は提供する商品若しくはサービスの属する市場が、新規性を有するものであること。
(3) 事業計画期間終了後、新たに製造する製品又は新たに提供する商品若しくはサービスの売上高が、総売上高の十分の一以上を占めることが見込まれるものであること。
事業再構築指針「新分野展開」の該当要件詳細
製品等の新規性要件については7つ、市場の新規性要件については3つ(必須2つ、任意1つ)、および売上高要件を満たす必要があります。概略は下記のとおりです。
事業再構築指針「新分野展開」の「製品等の新規性要件」
まず製品等の新規性要件から見ていきましょう。1~7までは全ての企業にとって必須要件で、すべて満たす必要があります。
既存製品等の製造量を単に増やすだけではない
非該当例(指針原文)
既存の製品の製造量又は既存の商品若しくはサービスの提供量を増大させる場合
指針の手引の例には「自動車部品を製造している事業者が、単に既存部品の製造量を増やす場合」と書いています。このようなケースに該当すれば、対象外です。
過去に製造等した実績がない
非該当例(指針原文)
過去に製造していた製品又は過去に提供していた商品若しくはサービスを再製造又は再提供する場合
指針の手引きの例には「過去に一度製造していた自動車部品と同じ部品を再び製造する場合」と書いています。このようなケースに該当すれば、対象外です。
過去に製造していた製品を再製造等することや、過去に提供していたサービスを再提供するような取組はダメということですね。過去に製造等した実績がないものにチャレンジすることが必要になります。
既存製品等の簡単な改良ではない
非該当例(指針原文)
既存の製品又は既存の商品若しくはサービスに容易な改変を加えた新製品又は新商品若しくは新サービスを製造又は提供する場合
指針の手引きの例には「自動車部品を製造している事業者が、新たに既存の部品に単純な改変を加えてロボット用部品を製造する場合。」と書いています。このようなケースに該当すれば、対象外です。
新製品が既存製品を単に組合せたものではない
非該当例(指針原文)
既存の製品又は既存の商品若しくはサービスを単に組み合わせて新製品又は新商品若しくは新サービスを製造又は提供する場合
指針の手引きの例には「自動車部品を製造している事業者が、既存製品である2つの部品を単に組み合わせたロボット用部品を製造する場合。」と書いています。このようなケースに該当すれば、対象外です。
製造等に用いる主な設備が既存製品と変わらない
非該当例(指針原文)
既存の製品の製造又は既存の商品若しくはサービスの提供に必要な主な設備、装置、プログラム(データを含む。)又は施設(以下「設備等」という。)が、新たな製品の製造又は新たな商品若しくはサービスの提供に必要な主な設備等と変わらない場合
既存製品の製造等に必要な主な設備が新製品製造に必要な主な設備と変わらない場合は対象外です。別の言い方をすると、新製品の製造、新サービスの提供のために、主要な設備を変更する必要があります。
指針の手引には、次のように書かれています。
- (例)これまでパウンドケーキの製造の際に用いていたオーブン機器と同じ機械を、新商品である焼きプリンの製造に使用するような場合は要件を満たしません
- (例)従来パウンドケーキの製造に用いていたオーブン機器をより性能のよいものに単に買い換える場合
- 新たな投資を必要とせず、単に商品ラインナップを増やすような場合は要件を満たしません
- 単により性能の高い同種の機械設備を導入するだけでは要件を満たしません
基本としては、新しい製品やサービスの実現にのみ必要な、新しい設備の導入が必要ということでしょうね。
競合他社の多くが既に製造している製品ではない
非該当例(指針原文)
事業を行う中小企業等と競合する事業者の大多数が製造又は提供する製品又は商品若しくはサービスを新たに製造又は提供する場合
補助金をもらってやろうと思っている事業再構築の内容が、既存事業の競合他社の多くが既に手掛けている製品・サービス・製造方法だと対象外です。ここでいう競合他社が、既存事業の競合を指すのか、新分野における競合を指すのかは、この指針原文を読むだけでは判断が困難です。手引にある事例を読む限り、どうも既存事業の競合他社のように解釈できます(あくまでも当社の解釈です)。以下、指針の手引にあった全ての例を挙げます。
- パウンドケーキを製造している事業者が、競合他社の多くが既に製造しているにもかかわらず、新たに焼きプリンを製造する場合はダメ
- 同種の航空機用部品を製造している競合他社の多くが、同種の医療機器部品を製造していなければOK
- 都心部の駅前にビジネス客向けのウィークリーマンションを営んでいる競合他社の多くが、レンタルオフィス業を営んでいなければOK
- 日本料理店を営んでいる競合他社の多くが、焼肉店を営んでいなければOK
- 同種のプレス加工用金型を製造している競合他社の多くが、同種の産業用ロボットを製造していなければOK
- レンタカー事業を営んでいる競合他社の多くが、貸切ペンション経営を行っていなければOK
- 同種の生産用機械を製造している競合他社の多くが、データセンター事業を行っていなければOK
ただし指針で問われなくても、事業計画書の中では、新たな進出先(新分野)でどういう差別化を図るのかを書くことは当然に要求されるでしょうから、新分野での差別化要素を考慮にいれなくてよいということは無いと考えます。
定量的に性能又は効能が有意に異ならない
非該当例(指針原文)
製品又は商品若しくはサービスの性能が定量的に計測できる場合であって、既存の製品又は既存の商品若しくはサービスと新製品又は新商品若しくは新サービスとの間でその性能が有意に異なるとは認められない場合
この要件は、製品等の性能や効能が定量的に計測できる場合に限って、説明が求められるもののようです。定量的に計測ができない場合(全く別の製品やサービスのために比較ができない場合)は、その旨を説明するだけでよいようです。味や匂い、外観など、定量的な計測ができない場合も、その旨を説明すれば大丈夫かもしれません。
一方で、既存製品と新製品と類似の製品であって、その性能(強度や軽さ等)を比較することが可能な場合には、差異を定量的に説明するしなければなりません。もちろん、既存の製品等と新製品等の性能に有意な性能の差が認められない場合は要件を満たしません。
なお、指針の手引では性能や効能の例として、強度、耐久性、軽さ、加工性、精度、速度、容量等などが挙げられています。
事業再構築指針「新分野展開」の「市場の新規性要件」
市場の新規性要件は、1~3まであります。1と2が必須で、3は任意要件のようです。
市場が同一でない(既存製品等が新製品等に代替されない)
非該当例(指針原文)
既存の製品又は既存の商品若しくはサービスとは別の製品又は別の商品若しくはサービスだが、対象とする市場が同一である場合(具体的には、既存の製品又は既存の商品若しくはサービスの需要が、新製品又は新商品若しくは新サービスの需要で代替される場合)
「既存製品等と新製品等の代替性が低い」というのはどういうことかというと、新しい取組と既存事業の需要が食い合うような取組は対象外ということです。「カニバリゼーション」「カニヴァリズム」という専門用語で説明されることがありますが、Aという新商品を発売したら、既存商品Bの売上が減ってしまう(BのユーザーがAに移行してしまう)というようなもののことを指します。ビール、発泡酒、第三のビールの関係を思い浮かべてもらえばわかりやすいでしょう。
指針の手引の事例を見ていると、顧客が異なる、既存製品と新製品との関係性が薄い、異なるニーズに応えるものである、用途が異なるなどを説明できれば、代替性が低いことが主張できそうです。
既存製品等の市場の一部のみを対象としていない
非該当例(指針原文)
既存の製品又は既存の商品若しくはサービスの市場の一部のみを対象とするものである場合
既存の製品等の市場の一部のみを対象とするものである場合は要件を満たしません。
指針の手引の例には「アイスクリームを提供している事業者が、バニラアイスクリームに特化して提供する場合、アイスクリームの市場の一部のみを対象とするものと考えられ、市場の新規性要件を満たさないと考えられる」とあります。
(任意)既存製品等と新製品等の顧客層が異なること
指針には書いていませんが、指針の手引きには「既存製品等と新製品等の需要・売上の決定要素を考慮し、顧客層(※)が異なることを事業計画において示す場合には、より高い評価を受けることができる場合があります。」とあります。(※)年齢層、性別、所得、職業、地域、資産、家族構成等
「既存製品等と新製品等の需要・売上の決定要素を考慮し……」という表現が何をさすのか漠然としていますが、手引きには次のような例があります。
宿泊施設において、大宴会場を個室食事処に改修する場合、その事実のみでは利用する客層が異なることが示されておらず、高い評価が得られないと考えられる。従来と異なる単価の客層や、観光客や日帰り入浴利用客など宿泊者以外も利用できること等を示すことで高い評価を受けられる可能性がある。
この例から逆算しての推測ですが、おそらくここで言いたいのは「大宴会場で食事をする層としては低価格帯の顧客をターゲットとして、個室食事処で食事をする層は高価格帯の顧客をターゲットとする。つまり客単価が異なる層だから、顧客層が違うんだ」というような層別をして、それを説明するというようなことを言いたいのでしょう。客単価は「既存製品等と新製品等の需要・売上の決定要素」といえますので、こうした観点も含んだ上で顧客層を明確にしてください、ということなのでしょう。
事業再構築指針「新分野展開」の「売上高要件」
最後の要件は売上高要件です。事業計画終了後、つまり3~5年後ですが、新しい製品が最低でも総売上高の10%以上にならないとダメという要件です。ここでいう10%は、申請するための最低条件だということです。この要件を最低限満たした上で審査が行われますので、10%をクリアしているから大丈夫ということはないでしょう。しかし、高ければよいという問題でも無いと思います。審査員が納得する妥当な数字をはじき出すことができるか、ということが重要でしょう。