おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
内部監査レベルアップ講座として、現場で是正処置として扱われがちな「ダブルチェック」について解説をします。1回目の今回は、ダブルチェックの有効性について解説をします。
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ダブルチェックは常に有効とはいえない
ミスや不良が起きたあとに再発防止策を検討することをISOの規格は求めていますが、その再発防止策として「ダブルチェックをする」と計画するケースがとても多いんですよね。ダブルチェックをすれば、ミスの流出は防げるんじゃないかという気はたしかにするんですけれども、結論としては、ダブルチェックは常に有効とはいえません。
多重チェックの効果に関する実験
まずはですね、電気通信大学の島倉先生と田中先生のおふたりが、2003年に実施した、ダブルチェックについての実験を紹介しましょう。この実験では、何人かが机に一列に並んで、封筒に印刷された郵便番号、住所、氏名の3項目を、あらかじめ配布されている住所録と照らし合わせて、正しいかどうかをチェックしたそうです。最大で5人のチェック…つまり5重チェックまでやってみたそうです。
結果はどうなったと思います?われわれの印象としては、このグラフのように、2人によるチェックよりも3人、3人よりも4人、と多重チェックの数が増加するほど、ミスの発見可能性が高まると考えたくなりますよね。
しかしこの実験の結果はというと、2重のチェックが最もミス発見率が高く、3重以上ではむしろ発見率は下がるケースがあるという結果が出たそうです。
これだけを見ると「二重チェックは意味がありそうだな」と言いたくなりますけれども、田中先生によると「これは1つの実験例であり、2重が一番良いと結論付けることはできません」とのことです。
それはこのグラフの郵便番号のところを見れば察しが付きますよね。郵便番号の印刷ミス発見率は、3回めが一番高くて、その次が4回めですからね。この実験をやった条件や環境ではこういう結果がでたということです。ということで、このグラフからは、多重チェックをすればするほどミスの発見可能性が高まるとはいえない、場合によっては逆効果になる可能性もある、と言えそうですね。
多重チェックで効果がでないのは「社会的手抜き」のせいではないか
どうしてチェックが増えてもミスを見落としたのかという理由は、社会心理学でいうところの「社会的手抜き」で説明ができるかもしれません。
社会的手抜きとは、大勢で一斉になにか同じ作業をするときに、作業者が増えれば増えるほど、一人当たりの生産性が減っていくという減少のことです。これは100年以上前に、フランスのリンゲルマンさんという学者が見つけた現象なんですね。
例えば綱をひく時、1人の時の力の量を100%とした場合、2人で引くと、一人あたりの力の量は93%くらいになるそうです。そして3人では一人当たり85%、4人では77%となって、人数が増えるごとに1人あたりの力の量は低下したんだそうです。
なぜこんなことになるかというと、人が増えると一人あたりの責任が薄くなるからではないか、と言われていますね。つまり同じことをする人が自分以外にもたくさんいると、「自分が頑張らなくても誰かがやってくれるだろう」と思ってしまうんですよね。
「社会的手抜き」がどう現場で発生しているか
「社会的手抜き」がどのように現場で発生しているかを、もう少し具体的にしてみました。
まずミスが起きると、チェックを増やして乗り切ろうとします。しかしチェックが増えると忙しくなりますよね。特にダブルチェックだと、誰かの手を止めてチェックをしてもらわないといけないので、大変です。忙しくなると「誰かがちゃんとやってくれるから、自分はちょっといい加減でも大丈夫だろう」と、他人任せにもなります。他人任せになると、一人一人の作業精度がさがって、それが更にミスを生むという悪循環になるんじゃないかということですね。