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リチャード・P・ルメルトの『戦略の要諦』の概要と素人感想

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おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

リチャード・P・ルメルトの『戦略の要諦』を読みました。帯には「ミッションやパーパスは無意味である」などと挑戦的な言葉もありましたが、読んでみたので、内容の簡単な紹介と、感想を述べてみたいと思います。

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リチャード・P・ルメルトの『戦略の要諦』における「戦略」とは何か?

この本における「戦略」の定義をぼくなりに解釈すると、「戦略」とは、組織の問題や、自社の成長を阻害する根本原因(これが原題でいう"The Crux")を特定し、それを解決するための具体的な計画と行動といえます。

そして戦略を立てるために重要なことは、以下の3点だと、リチャード・P・ルメルトは言っています。

第一は、ほんとうに重要なのはどれで、後回しにしてよいのはどれかを見きわめる能力。第二は、その重要な問題の解決は手持ちのリソースで現実的に解決可能なのかを判断する能力。第三は、リソースを集中して投入する決断を下す能力、逆に言えば、貴重なリソースを小出しにしたり、一度にいろいろなことに手を出したりする愚を犯さない能力である。

リチャード・P・ルメルト. 戦略の要諦 (日本経済新聞出版) (p.12). 日経BP,kindle版

これを簡単に言うと、

  • 組織の問題や、自社の成長を阻害する根本原因は何かを見極めて
  • その根本原因は解決可能かどうかを判断し
  • 解決できるとすれば、そこに経営資源を集中投下する

ということですね。要は「我が社の問題の根本原因を見つけて、そこの解決に全力を尽くすことが戦略だ」ということなので、正直な感想としては、よく言えば「非常にシンプル」であり、あえて悪く言えば「当たり前のこと」のようにも聞こえます。だから日本語の題名にも「要諦」と書いているのでしょうけど。

逆に「戦略ではないもの」とは何か

逆にリチャード・P・ルメルトの『戦略の要諦』における「戦略ではないもの」とは何でしょうか。戦略ではないものとは、漠然とした目標設定や、具体的な行動計画や問題解決手法を欠いた願望です。これが本の帯に書いている「ミッションやパーパスは無意味である」とつながってくるのですが、帯はちょっと煽り過ぎな気がします。ルメルトは、ミッションステートメントやパーパスがどれだけ高尚なものであっても、それ自体は具体的な戦略とはいえない、と言っているに過ぎません。

つまり「戦略」とは何なのか?(山登りを例に)

つまり「戦略」とは何なのか?を、わかりやすく山登りを例にして説明してみましょう。「戦略」とは、山頂を目指す上で最も困難な部分、例えば急斜面や難易度の高い岩場を特定し、そこにどうアプローチをするのかが「戦略」です。決して「標高何メートルの山に、何時間で登ろう」ということは戦略ではありません。(これはミッション・ステートメントやパーパスに該当する部分ですが、そうしたものを持つことを否定はしていない、というのが僕の理解です)

そして登山者は、この「最も困難な部分」を乗り越えるために、事前にルートを計画し、必要な装備を準備し、体力と技術を鍛え上げ、実際にその困難な部分に挑むことに全ての注意とエネルギーを集中させます。この過程で予期せぬ障害に直面した場合、登山者は柔軟に計画を調整し、目標達成のために最適な行動を選択します。

戦略とは、このようにして目標に向かって進む過程全体を通じた計画と行動、そして適応のプロセスだ、ということです。

実際のビジネスの例:Falcon 9の事例

『戦略の要諦』では、実際のビジネスでの例も述べられています。イーロン・マスクが率いるSpaceXにおけるFalcon 9ロケットの開発が本文中に例示されているので、その部分だけ要約をしてみたいと思います。

SpaceXの目標は、低コストで信頼性の高い宇宙輸送を実現することでした。この挑戦の「最も困難な部分」は、ロケットの高コストでした。なぜならロケットは一般的に「使い捨て」だからです。マスクと彼のチームは、この問題を解決するために、従来の宇宙船とは異なる設計アプローチを採用。つまりロケットを再使用可能にすることでコストを大幅に削減する戦略を立案し、これを実現するために必要な技術開発にリソースを集中させました。結果として、SpaceXはFalcon 9ロケットを成功させ、商用宇宙輸送市場において革命を起こした、という話ですね。

目新しい論ではなく、似たような考えは他にもある

以上のように『戦略の要諦』の内容をざっと解説しましたが、「我が社の問題の根本原因を見つけて、そこの解決に全力を尽くす」ことの重要性を論ずるというのは、特に目新しい論ではありませんね。

ルメルトの考え方は、エリヤフ・ゴールドラットによる制約条件の理論(Theory of Constraints, TOC)と共通する側面があります。TOCは、システムの成果を最大化するためには、システムを制約している最も弱いリンク、すなわち「制約条件」に焦点を当て、それを改善することが重要であると主張します。TOCにおける「制約条件」が、『戦略の要諦』における「最も困難な部分(The Crux)」とよく似ていますよね。どちらも組織やプロジェクトが直面する問題の中核部分を特定し、それを解決するための計画と行動を立案するという点で、相通じるものがあります。。

ただ、TOCはシステムの効率を最大化するための方法論として具体的なツールやプロセスを提供するのに対し、ルメルトはより広い意味での戦略立案における問題解決のアプローチに焦点を当てているという点(適用範囲)に違いがあるといえるかもしれません。

TOCだけではなく「我が社の問題の根本原因を見つけて、そこの解決に全力を尽くす」というのであれば、ISOマネジメントシステムの是正処置も同じ考えですし、なぜなぜ分析も似たような考えですね(これも個別の問題の解決と、戦略立案というレイヤーの違いはあります)。

完全に個人的な主観ですが、ルメルトの指摘は、様々な戦略立案フレームワークやツール、表面的な手法に惑わされることなく、自社の問題の真の原因に真摯に向き合い、そこに対して手を打つという「シンプルな本質」に立ち返れ、と言いたいのかもしれませんね。

あえて『戦略の要諦』を批判してみる

「我が社の問題の根本原因を見つけて、そこの解決に全力を尽くす」ということには特に異論を挟む余地がないのですが、あえて批判もしてみたいと思います。(そして自分でした批判に対して自分でツッコんでみます)

  • 実践に移すためのフレームワーク化がなされていない。(もっともルメルトにフレームワーク化の責任やインセンティブがあるわけでもない。まあ強引に解釈すれば、TOCの思考プロセスやなぜなぜ分析など既存のツールがフレームワークになりうるかもしれないが)
  • 困難な課題の解決のためには「強みを活かす」ことが重要と言っているが(ルメルトはRBV のフレームワークを展開した人でもあるので当然だろうけど)、RBVへの批判が『戦略の要諦』には盛り込まれていない(まあここも、ルメルト本人が自分の論を批判する必要はないとは思う。余談だけど、本書で強みの見つけ方について、詳細に書いているところは、さすがと言わざるを得ない見どころでもあります)
  • 問題の核心を解決することが成功を保証するわけではなく、実際には多くの外部要因や不確実性が成功に影響を及ぼすのではないか(これもRBV批判の一つ。ただルメルトも不確実性には触れていないわけではないが、記述は少なく、結局は強みを活かして戦略を立てるという考えに終始しているように見えた)
  • 問題の核心は、SpaceXの事例のように一つにしぼり込めるものではなく、もっと複雑性があるはず。(事例は一般的に、自分の主張に適合させるためにその他の問題やリスクを削ぎ落として単純化する場合があるので、読むのに注意が必要)
  • 個人的には組織に関することが最も困難な課題だと思う。そこについても1章を費やして解説している点は評価したいが、一般論と事例紹介に終始しており、洞察が薄い(もっともルメルトもそこは専門外なので求めるのは酷だろうが)

無理やり批判してみましたが、内容としては当たり前のことを書いているので、すんなり受け入れられるものでした、というのは再度強調しておきたいと思います。ミンツバーグの『戦略サファリ』にも述べられているように、戦略論にはいろいろなものがありますが、シンプルに考えればいいんだ、というのは、そうしたことを仕事にしている人間にとっては気が休まる一言でしたね。(ズボラなので、いろんな戦略論を勉強したくない)

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