おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
1/28に文春で、北浜グローバル経営株式会社(以下、北浜G)の自己破産についての記事が掲載されました。補助金申請コンサルで急成長した同社の倒産について、(今さらですが)私見を述べたいと思います。だいぶ私情が混じっていてお世辞にも客観的な文章とは言えませんが、結論としては、政府の補助金政策の失敗が根本的な原因だと考えています。
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表面的な北浜G批判
記事の内容としては昨年8月の日経新聞連載「信用調査ファイル」とほぼ同内容です。要約すると、北浜Gはコロナ禍の補助金バブルに乗り、中小企業向け補助金支援を事業の柱にしていましたが、行政の方針変更により経営が行き詰まり、あっけなく崩壊しました、というものです。
確かに北浜Gのリスク管理は杜撰で、ガバナンスに相当の問題があったことは否定できません。しかし、この倒産を「一企業の失敗」として片付ける帝国データバンクの記事には物足りなさを覚えます。北浜Gの経営ミスは疑いありませんが、本質的な問題はそこではなく、政府の政策が一貫性を欠き、企業の補助金依存体質を生み出したことにあるでしょう。(まあ、帝国データバンクは元来、個々の企業の経営に視点を置いているので、仕方ないかもしれませんが)
コロナ禍で膨らんだ補助金依存
記事の指摘の通り、北浜Gが急成長した背景には、2020年以降の補助金バブルがあります。政府はコロナ禍の経済対策として「事業再構築補助金」などを次々に打ち出しました。この補助金の背景としては、以前よりウォール・ストリート・ジャーナルや日刊工業新聞が指摘するように、当時の菅義偉首相と、その背後にあるデービッド・アトキンソン氏の影響があると言われています。つまりアトキンソン氏が「中小企業の淘汰が必要」と主張し、菅首相がその考えを取り入れたことが、この補助金につながったということですね。
その結果、補助金が大盤振る舞いされ、補助金申請コンサル業者が急増。企業も補助金獲得を目的化し、本来の競争力向上よりも「申請が通る計画書」を作ることに注力するようになりました。新規事業に真剣に取り組む企業がないわけではありませんが、実態のない事業計画が乱立し、北浜Gもその流れに乗った企業の一つでした。
こうした補助金バブルは、コンサルだけではなく、企業もメーカーも商社も、補助金への依存を強めます。「補助金がなければ◯◯できない」というようになった人たちを、支援の現場では何度も何度も目の当たりにします。補助金は甘い汁である反面、依存を招き、持続的に事業を営む力を、ゆっくりではあるものの確実に奪っています。
補助金という形であったからこその混乱
表面的な問題は、補助金の運用基準が短期間で大きく変わったことにあります。行政事業レビューなどの有識者会議からの批判を受け、補助金審査のプロセスが煩雑になり、申請企業の負担が増大。加えて、不適切なコンサル排除のため、不適コンサルによる「作文」が禁止されました。
補助金の「適正化」として、行政がそうした手を打つのは致し方ないように思えますが、そもそも、事業計画書コンテストのような形で補助金を交付する方式を採らなければ、こうした行政方針の度重なる変更も、申請企業への負担も、不適切なコンサルの蔓延も防げたはずです。北浜Gも身の丈を超えた拡大をせずに済んだかもしれません。補助金という形であったからこそ、こうした混乱が現場で起こったことは明白です。
こうした混乱は、今に始まったことではありません。政府の中小企業政策にはそもそも一貫性がなく、政権交代やブレーンの影響で方向性が変わり続けてきました。90年代からゼロ年代にかけては、円高による大企業の海外展開を背景にして海外展開を煽ったかと思うと、リーマンショック以降は中小企業の生産性向上を謳う。そしてコロナ以降は淘汰を視野に入れた「再構築」を押し付けた挙げ句に、昨年からは中小企業ではなく中堅企業に力を入れ始めています。市場環境の変化に応じた政策変更は必要ですが、一貫性なく政策が変わる上に、その都度、リスクをはらむ補助金が主な施策になってしまうのは、行政のガバナンスが進化していないと言わざるを得ません。
行政の補助金偏重は「民意」が作り出している
補助金は企業の成長を促すための一手段にすぎません。しかし政府の予算を見ると、補助金に大きな偏りが感じられます。本来強化すべき税制優遇や低利融資、ハンズオン支援といった、持続可能な支援が後回しになっているように思います。最近ではハンズオン支援に(何度目かの)力を入れ始めていますが、予算規模からするとアリバイ作り程度のものでしかなく、予算の逐次投入と言わざるを得ません。
なぜそうなるのかを突き詰めていくと、中小企業の経営者による「民意」が、補助金を望んでいるからという現場の実感があります。それは、目先の資金繰りに追われ、今ここにある従業員の雇用と生活を守るには、致し方ないことだとぼくも思います。
しかしそうした「民意」を利用しながらも、肝心なところでは民意で選ばれていないブレーンの意見を採用して、一つ覚えのように補助金を近視眼的に推し進めることは政治に期待すべきことではありません。
北浜Gの倒産は、政府の「無策」が企業経営に影響を与えた一つの事例でしょう。同じ轍を踏まないためにも、政府の中小企業政策は一貫性と持続可能性、そして長期的視野を持つ形に見直されるべきと考えます。